「ストレスとは?」原始時代は猛獣から逃げるか、戦うか、即座に動く必要があった
原始時代のストレスは生きていくために必要だった
現代社会におけるストレス反応は、多くの人が日常的に直面する問題です。このストレス反応は、原始時代に私たちの祖先が猛獣から逃げるか戦うかのために発達した体の反応の仕組みに由来しています。
原始時代のストレス反応の仕組み「戦うか逃げるか反応」
原始時代の人類は、猛獣や他の天敵から逃れるために即座に身体を動かす必要がありました。
この際、体内で「fight-or-flight response」(戦うか逃げるか反応、1929年にウォルター・B・キャノン提唱)というストレス反応が働きます。具体的には、ストレスホルモンであるアドレナリンやコルチゾールが分泌されます。アドレナリンは心拍数と血圧を上昇させ、筋肉への血流を増加させます。コルチゾールはエネルギー供給を確保し、長期的なストレスに対応するための準備を行います。
これにより、迅速に逃げるか戦うかの行動が取れるようになります。Cannonによれば、この反応は動物が危険に直面したときに身体を即座に対応させるためのものでした (Cannon, 1929)。
現代においてストレスは私たちを守り、苦しめる
現代においてもストレス反応は危機的状況から命を守る
原始時代において、猛獣や天敵から身を守るために必要だったこのストレス反応は、現代に生きる私たちにも依然として有効な場合があります。
この反応により、身体は即座に行動を取る準備ができ、例えば危機的な状況や緊急事態に迅速に対応する能力が向上します。
ストレスが続くと病気を誘発する
しかし、現代社会のストレス源は、祖先が直面した物理的な脅威とは異なり、多くの場合は心理的・社会的なものです。
厚生労働省の「労働安全衛生調査(2023年)」の個人調査によれば、日本の労働者の82.7%が仕事や職業生活に関するストレスを感じており、その中で「仕事の失敗、責任の発生等」が39.7%、次いで「仕事の量」が39.4%、そして「対人関係」が29.6%と報告されています。この結果からも多くの人がストレス反応に悩まされていることがわかります。
そして、この古い仕組みがかえって過度なストレス反応を引き起こし、心身の健康に悪影響を及ぼすことがあります。例えば、職場のプレッシャーや人間関係のトラブルなど、長引くストレスは体にとって有害であり、慢性的なストレスホルモンの分泌が続くと、免疫機能の低下や心血管疾患のリスクが増加することがあります。現代における「猛獣」は仕事や人間関係
現代では仕事や人間関係が「猛獣」となり、同様にストレス反応が起こりますが、実際に猛獣と戦う必要がないため、これらの反応は過剰な生理現象となります。
ストレス反応が発生したとき、猛獣から逃げることや戦うことを現代における運動にあてはめると、体に適した対処法となります。
「猛獣」から逃げ切った後、戦った後の安心感と運動
さらに、逃げ切った後に感じる「ほっと安心する」感覚も運動後のリラックスと酷似しているといえるでしょう。猛獣から無事に逃れた後、体内のストレスホルモンのレベルが下がり、副交感神経(リラックスや休息を促す神経)が活性化されます。
これにより、体はリラックス状態に入り、心身が回復します。Sapolskyによれば、ストレスホルモンのレベルが下がることで体はリラックスし、回復モードに入るとされています (Sapolsky, 2004)。
同様に、運動後にもリラックスや安心感が得られることがあります。運動はストレスホルモンのレベルを低下させ、副交感神経を活性化するため、安心感をもたらします。
現代の心理的ストレス反応への対処法
原始時代のストレス反応を現代の運動にあてはめてプラス効果
このストレス反応が起きたときに、原始時代のように走ったり(逃げる)運動したり(戦う)することで、ストレス反応を緩和する効果が期待できるでしょう。
運動はコルチゾールやアドレナリンのレベルを低下させるだけでなく、エンドルフィン(幸せホルモン)を分泌させ、気分を高揚させる効果もあります。Harvard Health Publishingによれば、運動はストレスホルモンを減少させ、エンドルフィンを増加させることが示されています (Harvard Health Publishing, 2020)。
また、運動後に感じるリラックス感や達成感は、ストレスからの解放感をもたらし、心身のバランスを整えます。HackneyとWalzによれば、適切に調整された運動はコルチゾールの分泌を調節し、ストレスへの適応を助けることが示されています (Hackney & Walz, 2018)。
まとめ
原始時代の猛獣から逃げたり戦ったりする反応と、現代の運動によるストレス解消は、同じ体の反応の仕組みに基づいています。ストレスが加わったときに身体を動かすことで、ストレスホルモンのレベルが下がり、心身のバランスが整います。
これにより、現代社会のストレスに対処するための有効な方法として、運動が推奨されるのです。ストレスを感じたときに運動を取り入れることは、心身のリセットに非常に効果的です。
ランニングやウォーキング、ヨガやダンスなど、自分に合った運動を見つけることで、現代社会のストレスに対処するための強力なツールとなります。運動を通じて身体と心をリセットし、より健全な生活を送ることができるでしょう。
参考文献
- Cannon, W. B. (1929). The Fight-or-Flight Response. ResearchGate.
- Sapolsky, R. M. (2004). Why Zebras Don't Get Ulcers: The Acclaimed Guide to Stress, Stress-Related Diseases, and Coping. Holt Paperbacks.
- Harvard Health Publishing. (2020). Exercising to Relax. Harvard Health.
- Hackney, A. C., & Walz, E. A. (2018). Hormonal adaptation and the stress of exercise training: the role of glucocorticoids. Trends in Sport Sciences, 20(4), 165-171.
- 厚生労働省. (2023). 労働安全衛生調査.